制御盤の製作など、制御の仕事に携わっている人であれば1度は『PID』と言う言葉を見聞きした事があるのではないでしょうか?この『PID』とは昔からある制御方法の事で、今現在でも絶大な支持を得ている制御方法だと言えます。
理由は『PID制御』が非常に優れた制御方法であるからとしか言い様がなく、温調計などの電気部品には必ずと言って良い程、『PID制御』の機能が付いています。
実際に『PID制御』とはどの様な制御方法なのか?『PID制御』はP動作(比例動作)による制御とI動作(積分動作)とD動作(微分動作)を組み合わせた制御方法です。
これだけ見ると分かりにくい、何の事だか分らない、と言う人も多いと思います。
実際に私もそう思いました。
もう少し分かりやすくすると、比例動作は現在の状況から判断して行動を起こす事。
積分動作は過去の経験を生かして行動する事。
微分動作は未来の事を予測して行動する事。
と言った具合に解釈する事が出来ます。
まるで人間の様だと思う人が多数いると思います。
自動制御の大きな目的の1つである人間の様に機械を制御する事を達成できている感が『PID制御』には有ります。
では、『PID』のPとIとDはそれぞれどの様な動きをするのかを簡単にまとめてみます。
タンクの中に入っている物質をガスコンロの様な物で加熱して100℃に保ちたい場合、手動でコンロのレバーを操作するとなればまず大きな火で100℃に近づくまで加熱すると思います。100℃を超えてしまったら火を弱め温度の下降を待ちます。
この動作を繰り返して目標値となっている100℃に近いポイントで良しとします。
この動きが『PID』の中で言うPの比例動作にあたると言えます。
目標値に近づけると言って動きで目標値ピッタリにする事が出来ないのが比例動作で、ここがP制御の限界とも言えます。
この目標値と実際の測定値の差を偏差と呼び、操作を止めた後の定常状態での偏差の事を定常偏差またはオフセットと呼びます。
では、ここで過去の経験からどの程度の操作を行えばどの位温度が変化するかを熟知した人が操作する場合を考えてみます。
100℃に加熱されるまでは同じく比例動作での操作をします。
100℃を超えてしまった時点で同じく微調整を繰り返して目標値に近づけます。
ここで、最終的に偏差をなくすためにさらなる調整をして偏差を0にする事が出来ます。
この動きが『PID』の中で言うIの積分動作にあたると言えます。
I動作で目標値ピッタリになるのであれば最初からI動作だけで良いのでは?と感じる人もいます。
しかし、普段のわれわれの生活を振り返るとそのような行動はとっていないと思います。
例えば、車で制限速度40km/hの一般道路から制限速度100km/hの高速道路に入ったとき、少しずつアクセルを踏んで速度を確認しながら100km/hまで速度を上げる人はまずいないと思います。
大体この位アクセルを踏めば100km/hに近づくであろうと言った操作をまず行うと思います。
少しずつ少しずつ速度を上げる事は確かに安全ではあると思いますが、他の車が100km/hで通過していく中に遅いスピードで入っていくのは逆に危険ではないでしょうか?その場合はなるべく早く速度を上げて100km/hに近づける操作が自然と言えます。
この場合素早く100km/hに速度を上げる動作がP動作に相当し、そして100100km/hに到達した時点から微調整を繰り返し100km/hピッタリにする動作がI動作に相当すると言えます。
この様にI動作だけでの制御だと定常状態に至るまで時間がかかりすぎる事がわかります。ですからI動作は単体ではなく必ずP動作と組み合わせた形で使用します。
この場合の制御を『PI制御』と呼びます。
P動作だけではオフセットが生じてしまいますが、そこにI動作を加えた『PI制御』はオフセットを除去できるため、かなり高度な制御だと感じるのではないでしょうか?しかし『PI制御』にも足りない面があります。
気づいた人もいるかとは思いますが、今まで挙げた例えの中には未来を予測した行動が一切入っていません。
今までの例では、1度目標も値まで到達させた後に細かな制御を行っているため、目標値よりも上昇しすぎてしまうと(オーバーショート)や、その逆のアンダーショートが生じてしまいます。そこで登場するのが『PID』のD動作(微分動作)です。
D動作はどのような動きか言うと、目標値までP動作で数値を上昇させていき、目標値に近づいた時点で操作量を調整し、数値が上昇しすぎない様に制御する働きがD動作に相当します。
このD動作が加わる事によって、より滑らかな制御が出来る様になります。
またD動作は外乱による変化にも対応できるためかなり高い精度の制御が出来ます。
外乱による変化とはどう言ったものかと言うと、タンクの例で言えばタンク付近の気温が急に下がりタンクを冷やしてしまうなど、その他の要因により測定値が変動してしまう様な状態の事を差します。
つまり、先の変化を読み取り偏差が大きくならないうちに修正する動作がD動作であると言えます。
D動作も、I動作と同様に、P制御、PI制御と併せてPD制御またはPID制御として使用します。
PID制御が優れた制御方法である事は理解いただけたとは思いますが、制御対象によっては必ずしもPID制御が最適と言う訳ではありません。
制御する対象や環境に応じて最適な方法を選択してください。
以上長々と述べさせていただきましたが、私個人の勝手な解釈で身近なものに例えているので、実際のPID制御と比べて多少表現があいまいであったり、不適切な面もあるかと思いますが、PID制御を学ぼうと思っている方々の力に少しでもなれれば幸いと思います。